2026年度診療報酬改定の短冊から読み解く薬局経営の転換点と薬剤師採用戦略
2026年度(令和8年度)診療報酬改定に向けた個別改定項目(短冊)が明らかになりました。 今回の改定は、これまでの抜け道を完全に封鎖し、都市部への偏在解消と薬局の機能分化を強力に推し進める内容となっています。 現場のレセコン対応や人事異動計画にも直結する、非常にインパクトの強い改定です。
1. 調剤基本料1の厳格化:都市部への包囲網
今回の改定で大きい部分は、都市部における調剤基本料1の算定基準が大幅に引き下げられる点です。
都市部における新規開局時の基準厳格化
新規開局への制約: 都市部で新規開局し、かつ特定の医療機関からの処方箋集中率が85パーセントを超え、月間受付回数が600回を超える場合、当初から「調剤基本料2」が適用されます。
距離制限と密集対策: 病院の境界から100メートル以内、または近隣50メートル以内に複数の他薬局が存在する場合など、立地に依存した新規開設には厳しい減算点数が適用される方針です。
既存店への配慮: すでに運営されている既存の薬局については、原則として現在の算定区分が維持される見通しです。ただし、一部の項目には経過措置が設けられる可能性があり、今後の通知を注視する必要があります。
同一グループ条件の変更
店舗数300以上の要件が削除され、月間の受付回数基準も4万回から3.5万回に引き下げられます。 これにより、中堅チェーンであっても調剤基本料3の区分に該当する可能性が高まり、収益構造の見直しを迫られます。
2. 立地依存への厳しい減算と集中率計算の抜本的変更
特定の医療機関に依存する「門前薬局」や「敷地内薬局」への対策が徹底されています。
集中率計算方法についての変更
医療モール(同一敷地内や同一建物内の複数医療機関)の処方箋を一体として計算するルールが導入されます。 また、これまで集中率を下げるために利用されていた「介護施設からの処方箋」を計算から除外する一方、オンライン服薬指導分は除外可能とするなど、計算式そのものが複雑化します。 これはレセコンの設定変更や日々の集計業務にも大きな影響を及ぼします。
特別調剤基本料A(敷地内薬局)の見直し
診療所を建物内に誘致することで算定を免れていた除外規定が廃止されます。 また、薬局内に設置されたオンライン診療受診施設も医療機関の独立性の観点から「敷地内」とみなされる方向です。 へき地における特例(4キロメートル以内に他薬局がない等)を除き、敷地内薬局への締め付けは最大級となります。
3. 加算の統合と在宅・地域支援体制の再定義
これまでの「地域支援体制加算」と「後発医薬品調剤体制加算」が統合され、名称も新たに再定義されます。
実績要件の通知待ち: かかりつけ実績や服薬情報提供(トレーシングレポート)の件数といった具体的な実績要件は、今後の通知で規定される見込みですが、より厳格化されることが予想されます。
統合の背景: 選定療養の導入による後発品使用率の変化を踏まえ、単なる使用率の維持だけでなく、地域の医薬品供給拠点としての機能を一本化して評価する狙いです。
後発品要件の組み込み: 従来の「規格単位数量割合(80%・85%・90%等の段階)」が要件に含まれます。今年8月末時点で加算1〜3を届け出ている薬局には、2025年5月末までの経過措置が設けられます。
在宅薬学総合体制加算の実績化
無菌室などの設備要件から「実績要件」へシフトします。 直近1年間の訪問実績(特に個人宅向け)や、麻薬管理指導、さらには乳幼児加算・小児特定加算の算定回数などが厳しく問われるようになります。 小児の在宅対応実績などが高いハードルとなる可能性があります。
4. 調剤料・指導料の細分化と管理の複雑化
現場のオペレーションに直接関わる点数設定も見直されました。
調剤管理料と重複投薬・相互作用等防止加算
調剤管理加算(6種類以上のチェック)が廃止され、調剤管理料が28日を境にした2本立てに整理されます。 また、重複投薬・相互作用等防止加算は「残薬調整(20点)」と「薬学的有害事象等防止(40点)」に分離されます。 残薬調整については6日分以下の場合にレセコンコメントが必要になるなど、事務負担の増加が懸念されます。
かかりつけ機能の再編:服薬管理指導料への統合
「かかりつけ薬剤師指導料」が廃止され、新たに「服薬管理指導料」の体系内に統合(区分イ:かかりつけ薬剤師と連携する薬局等)されます。
要件の緩和と厳格化: 週の勤務時間(31時間以上)や在籍期間(6か月以上)の要件が一部緩和される一方で、施設基準として「常勤薬剤師の平均在籍1年以上」や「管理薬剤師の3年以上在籍」といった継続性が強く求められます。
体系の見直し: かかりつけ薬剤師としての業務が、独立した指導料ではなく服薬管理指導料の「イ」として組み込まれます。これにより、かかりつけ機能は薬局の標準的な対人業務の延長線上として再定義されます。
継続的介入の評価(新設): * かかりつけ薬剤師フォローアップ加算: 服用薬剤調整支援料や残薬調整、薬学的有害事象等防止加算を算定した際、その後のフォローアップを次回の算定時に評価する仕組みが導入されます。
かかりつけ薬剤師訪問加算: プレ在宅とも言えるかかりつけ薬剤師による単発の訪問介入が新たに点数化されます。
5.2026年度改定後の「規模別」損益・経営シミュレーション
1. 小規模薬局(1〜10店舗程度)
結論:今回の改定における最大の勝者。最も利益率を維持しやすい。
- 根拠:
- 基本料の優遇: 大手チェーンに適用される「調剤基本料3」の厳しい要件(月3.5万回超、集中率85%超など)から完全に切り離され、最も高い「調剤基本料1」を維持しやすい。
- 都市部規制の回避: 既存店舗であれば、都市部の「600回超・集中率85%超」の基本料2転落ルールの影響を受けにくい(新規開局・新規契約がターゲットのため)。
- 人事の安定性: 管理薬剤師の「3年縛り」要件は、もともと異動が少ない小規模薬局にとっては、呼吸をするようにクリアできる条件。
- 報酬改定がプラスの理由: 大手が基本料2や3(20〜30点台)で苦しむ中、基本料1(40点台半ば〜)を維持し、さらに「調剤ベースアップ評価料」をそのまま利益ではなく人件費に充てることで、大手よりも高い給与を提示して優秀な人材を奪うことができます。
2. 大手調剤チェーン(300店舗以上)
結論:経営体力の削り合い。利益率は確実に低下。
- 根拠:
- 基本料の引き下げ: 同一グループ要件の厳格化(月3.5万回超など)により、ほぼ全ての店舗が低い基本料区分に固定されます。
- 人事戦略の破綻: 「3年縛り」要件により、大手の強みであった「機動的な応援・異動」が加算維持の足かせになります。異動をさせれば加算が消え、させなければ組織が硬直化するというジレンマに陥ります。
- 敷地内・門前規制: 大手が得意としてきた大病院門前や敷地内薬局が「減算点数」の直撃を受けます。
- 報酬改定の影響: 「量」で稼ぐモデルは維持できますが、1枚あたりの利益(粗利)は全規模で最低となります。スケールメリットによる医薬品購入価格の交渉力だけでどこまでカバーできるかの勝負になります。
3. 中規模薬局(50〜200店舗)
結論:今回の改定で最も「中だるみ」し、経営が不安定になるゾーン。
- 根拠:
- 大手の仲間入り: 同一グループの受付回数基準が「4万回→3.5万回」へ引き下げられたことで、この規模の薬局が「調剤基本料3(低い点数)」の網に掛かり始めます。
- 投資余力の差: 大手のようなDX投資(自動分包機や事務の自動化)による効率化が中途半端なため、複雑化した「重複投薬管理の分離」や「レセコメ入力」の事務コストが利益を圧迫します。
- 報酬改定の影響: 非常に厳しいです。小規模のような高単価も望めず、大手のような圧倒的バイイングパワーもないため、最も「稼げない」規模になるリスクがあります。
4. 【独自の強み】大手ドラッグストア(調剤併設)
結論:調剤単体では苦しいが、物販・面分業でカバー。
- 根拠:
- 集中率の低さ: もともと「面」で受けているため、集中率85%規制にはかかりにくい。
- 基本料1の維持: ドラッグストアは店舗数が多くても、調剤基本料1を算定しているケースが多く、今回の改定でもその地位を維持しやすい。
薬剤師採用についての影響まとめ
1. 中規模薬局を対象とした調剤基本料3の適用拡大
これまで、月間受付回数が4万回を超えていても店舗数が300店舗未満であれば「調剤基本料1」を維持できていた中堅法人が、今回の改定で大きな岐路に立たされます。
- 基準の引き下げと店舗数要件の廃止: 受付回数基準が月3.5万回に引き下げられ、300店舗以上という条件が削除されました。
- 経営への影響: 20店舗から100店舗規模で運営し、処方箋を効率よく集めていた法人が「調剤基本料3」の対象となる可能性が高まり、1枚あたりの利益率が低下します。
2. 管理薬剤師の在籍要件と採用・人への影響
人事戦略において最も注意すべきは、加算維持のための「在籍期間」の厳格化です。
- 3年間の在籍要件: かかりつけ薬剤師の施設基準として、管理薬剤師の3年以上の在籍や、常勤薬剤師の平均在籍期間1年以上が求められるようになります。
- 採用戦略の変化: 頻繁な人事異動が加算の喪失を招くため、特定の店舗に腰を据えて働く「地域固定型」の採用が必須となります。大手チェーンにいた薬剤師が、より安定した勤務環境を求めて中規模・小規模薬局へ流動する可能性があります。
3. 調剤ベースアップ評価料の活用
新たに設置される「調剤ベースアップ評価料」は、薬剤師3.2パーセント、事務職員5.7パーセントの賃上げを目的としています。 収益が圧迫される中でも、この評価料を確実に算定しスタッフの処遇改善に繋げられるかどうかが、採用における競合優位性を左右することになります。
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