2026年度診療報酬改定:病院薬剤師への影響と職能評価に基づく病院薬剤師採用戦略
2026年度(令和8年度)診療報酬改定は、2040年頃を見据えた医療提供体制の構築、医療従事者の確実な賃上げ、そして物価高騰への対応を三本柱として設計されています。特に病院薬剤師に関連する評価は、単なる点数の増減にとどまらず、多職種連携の中核としての機能発揮と、医薬品の安定供給という社会的責任の遂行を強く求める内容へと刷新されました。
1.医療従事者の処遇改善と人件費・物件費高騰への対応
2026年度改定における最大の特徴は、医療従事者の賃上げを確実に行うための「ベースアップ評価料」の拡充と、賃上げを実施しない医療機関に対する「入院基本料等の減算規定」の新設という誘導策が導入された点にあります。
ベースアップ評価料の拡充と段階的引き上げ
病院薬剤師を含む医療関係職種の賃上げ原資を確保するため、2024年度改定で新設された「ベースアップ評価料」が大幅に増点されました。特筆すべきは、令和8年度(2026年度)と令和9年度(2027年度)において段階的な評価が行われ、後年になるほど点数が引き上げられる設計となっている点です。
| 項目区分 | 現行点数(2024年度) | 2026年度改定(当初) | 継続賃上げ実施時の評価(注5) | 2027年6月以降の評価 |
| 外来・在宅ベースアップ評価料(I) 初診時 | 6点 | 17点 | 23点 | 40点 |
| 外来・在宅ベースアップ評価料(I) 再診時 | 2点 | 4点 | 6点 | 10点 |
| 入院ベースアップ評価料1 | 1点 | 11点 | — | — |
外来・在宅ベースアップ評価料(I)においては、初診時で約3倍、再診時で2倍の増点が行われます。 また、継続的に賃上げを実施している保険医療機関に対しては、さらに高い点数が設定されており、医療機関が賃上げを継続するインセンティブを強化しています。
令和9年6月以降は、所定点数の2倍に相当する点数へと跳ね上がる仕組みが導入されており、これが薬剤師の基本給底上げの主要な原資となります。
賃上げ未実施に対するペナルティとしての入院料減算
今回の改定では、継続的な賃上げに取り組まない医療機関に対する「入院基本料の減算規定」が新設されました。これは、令和6年3月と比較して賃上げを行っていない、あるいは「入院ベースアップ評価料」の届出を行っていない医療機関に対し、1日あたりの入院料から直接点数を差し引くものです。
| 対象入院料の区分 | 減算点数(1日につき) |
| 急性期一般入院料1、急性期病院A一般入院料等1 | 121点 |
| 急性期一般入院料2~6、急性期病院B一般入院料等 | 85点 |
| 特定機能病院入院基本料 | 141点 |
| 療養病棟入院基本料 | 42点 |
| 回復期リハビリテーション病棟入院料 | 76点 |
| 地域包括ケア病棟入院料 | 69点 |
| 救命救急、特定集中治療室管理料等 | 171点 |
この減算額は大きく、例えば特定機能病院であれば1日1,410円(141点)、急性期一般入院料1であれば1,210円(121点)が、すべての入院患者・入院日数に対して適用されます。
これは、医療従事者の賃上げを「努力義務」ではなく、診療報酬上の「存続要件」に近いレベルまで引き上げたことを意味します。病院経営層にとって、薬剤師を含む職員の賃上げを回避することは、診療報酬の大幅な逸失を招くため、事実上の強制力が働いています。
2.病棟薬剤業務の高度化と評価体系の再編
病院薬剤師のコア業務である病棟業務については、その「質」と「介入実績」を評価する体系へと移行しました。具体的には、従来の「病棟薬剤業務実施加算1」の上位区分が新設され、ポリファーマシー対策や退院時の連携実績が評価の要として組み込まれています。
病棟薬剤業務実施加算の三段階化と実績要件
新設された「病棟薬剤業務実施加算1(300点)」は、従来の加算1(120点)を大幅に上回る点数設定となっています。
| 新区分 | 点数 | 算定単位 | 特徴・施設基準 |
| 病棟薬剤業務実施加算1 | 300点 | 週1回 | 薬剤総合評価調整および退院時薬剤情報管理指導の十分な実績を有する |
| 病棟薬剤業務実施加算2 | 120点 | 週1回 | 従来の加算1に相当。専任薬剤師の配置と十分な時間の確保 |
| 病棟薬剤業務実施加算3 | 100点 | 1日につき | 従来の加算2に相当。特定入院料等における評価 |
「加算1(300点)」を算定するためには、単に薬剤師を配置するだけでなく、「薬剤総合評価調整業務」および「退院時薬剤情報管理指導」において十分な実績を有することが施設基準として求められます。
これは、薬剤師が医師や看護師と協働して、入院前の持参薬を含めた多剤投与(ポリファーマシー)を正式に是正し、かつ退院後も地域薬局等と連携して継続的な薬物治療を実現できているかを評価の指標としたものです。
薬剤師の専門的介入が、入院期間の短縮や再入院の抑制といった医療の質向上に寄与していることを、経済的インセンティブによって裏付けています。
薬剤総合評価調整加算の増点と施設間連携の義務化
ポリファーマシー対策を評価する「薬剤総合評価調整加算」も見直され、評価が引き上げられるとともに、施設間での情報連携がより厳格化されました。
☑薬剤総合評価調整加算(退院時1回):100点 → 160点
算定要件として、入院前に6種類以上の内服薬が処方されていた患者に対し、処方内容を総合的に評価して変更を行い、かつ「療養上必要な指導及び情報連携」を行った場合に算定可能となります。
これに伴い、従来の「退院時薬剤情報連携加算(60点)」が廃止され、本加算に統合された形となっています。病院薬剤師が、退院後の患者の服薬状況を地域薬局に適切に引き継ぐことが、独立した加算ではなく、薬剤調整業務の「不可欠な一部」として位置づけられた点は、対人業務へのシフトを象徴しています。
3.医薬品の安定供給と後発医薬品使用体制の新機軸
近年の度重なる医薬品供給不足問題に対応するため、従来の「後発品への置き換え」のみを評価する体制から、医薬品の「安定供給を確保する体制」そのものを評価する体系へと刷新されました。
後発医薬品使用体制加算の廃止と供給対応加算の新設
従来の「後発医薬品使用体制加算」は廃止され、新たに「地域支援・医薬品供給対応体制加算」が導入されました。この名称変更は、単なるラベルの貼り替えではなく、施設基準における社会的責任の大幅な追加を伴っています。
| 新区分 | 点数(入院初日) | 後発医薬品数量割合要件 |
| 地域支援・医薬品供給対応体制加算1 | 87点 | 90%以上 |
| 地域支援・医薬品供給対応体制加算2 | 82点 | 85%以上 |
| 地域支援・医薬品供給対応体制加算3 | 77点 | 75%以上 |
点数水準は維持されていますが、新設された施設基準には、医薬品流通の健全化に向けた以下の要件が盛り込まれています。
- 供給不足時の対応体制:医薬品の供給不足が生じた際に、治療計画の見直し等について適切に対応する体制を有していること。
- 情報の掲示と周知:後発品使用への積極的な取組、供給状況による薬剤変更の可能性、および変更時の患者説明について、院内掲示およびウェブサイト掲載を行っていること。
- 流通改善への協力:単品単価交渉の推進、頻回配送や休日・深夜配送、急配の抑制、返品の抑制といった「医薬品流通改善ガイドライン」の遵守。
- 地域連携の構築:地域の保険医療機関、薬局、医療関係団体と連携し、取り扱う医薬品の品目について情報共有や事前の合意に取り組むこと。
病院薬剤師は在庫管理のみならず、地域全体の医薬品需給バランスを調整し、卸売業者との公正な取引を担保する「流通の適正化」を担う存在として再定義されました。
これは業務負担の増加という側面もありますが、病院薬剤師の専門性が供給管理というインフラ機能においても公的に評価されたプラスの転換点といえます。
バイオ後続品(バイオシミラー)使用体制評価の合理化
バイオ後続品の使用促進についても、実務に即した見直しが行われました。
- 算定タイミングの変更:入院初日から「退院の日」に1回限りの算定へと変更されました。これにより、入院後に治療方針が決定し、バイオ後続品を導入した場合でも確実に算定できるようになりました。
- 実績基準の柔軟化:従来の使用回数合計(100回超)の要件が廃止され、特定の成分において直近1年間に一定量(50規格単位数量以上)の調剤実績があれば、他の成分の採用・使用状況に応じて加算が受けられるようになりました。
- 対象成分の拡大:ラニビズマブ、インスリングラルギン、ダルベポエチン、フィルグラスチムなどが対象リストに整理・追加され、薬剤師による経済的な処方提案が経営に貢献しやすくなっています。
4.専門領域およびチーム医療における職能評価
医師の働き方改革(タスク・シフト/シェア)の文脈において、薬剤師が専門性を発揮して病棟や外来で協働する体制への評価が各所に散りばめられています。
心不全再入院予防と栄養・口腔管理の一体化
高齢化に伴い急増する慢性心不全患者に対し、多職種が連携して再入院を予防する取組が新たに高く評価されました。
☑心不全再入院予防継続管理料(新設):1,000点(入院中1回)
この管理料を算定するためには、施設基準として「心不全の診療を担当する薬剤師」が適切に配置されていることが要件となっています。
薬剤師は、ガイドラインに基づく薬物治療の最適化だけでなく、療養指導や食事・運動指導等を含めた計画的な管理に共同で従事することが求められます。これは循環器領域における病院薬剤師の介在価値が、アウトカム直結型の報酬として認められた好例です。
カルタヘナ法に基づく高度管理と特定薬剤治療環境
遺伝子組換え生物等の管理を定めたカルタヘナ法を遵守した薬剤投与(再生医療等製品を含む)について、新たな管理評価が新設されました。
- 特定薬剤治療環境特別加算(新設):300点(1日につき)
対象は、カルタヘナ法に基づく管理が必要な薬剤を投与する目的で個室に入院する患者です。薬剤師は、これらの特殊薬剤の保管、調製、廃棄、および自宅等における管理指導において極めて高度な専門性を発揮する必要があり、そのための環境整備と管理工数が評価されています。
化学療法における安全確保と対策
外来腫瘍化学療法診療料の再編により、薬剤師の役割はさらに多層化しています。
- 皮下注射による化学療法の評価:従来の静注に加え、皮下注射による抗がん剤投与が新たな区分(351点等)として設定されました。
- 投与時閉鎖式接続器具使用加算(新設):150点 無菌製剤処理だけでなく、患者への投与時にも閉鎖式接続器具を用いた場合に算定できます。これは看護師への曝露防止という観点だけでなく、薬剤師が関与する化学療法全体の安全管理水準を高めるためのインセンティブです。
- 連携充実加算(150点)およびがん薬物療法体制充実加算(100点):薬剤師が副作用情報を収集し、文書による情報提供や医師への処方提案を行うことが要件として維持・強化されています。
5.在宅医療・外来医療における薬剤師の機能拡大
病院から地域へという流れを強化するため、医師と薬剤師が連携して在宅を支える体制にも新たな評価が加わりました。
医師・薬剤師の同時訪問による残薬・ポリファーマシー対策
在宅医療において、医師と薬剤師が同時に患者宅を訪問することを推進する新たな評価が新設されました。
☑訪問診療薬剤師同時指導料(新設):300点(6月に1回)
☑訪問薬剤管理医師同時指導料(新設):150点(6月に1回)
在宅患者のポリファーマシーや残薬が大きな社会問題となっていることを受け、医師単独では困難な薬学的評価を薬剤師と共に現場で行うことを促すものです。病院薬剤師が退院時訪問指導を行う際や、病院の在宅支援部門が訪問を行う際の強力な後押しとなります。
電子処方箋と救急医療情報の閲覧
医療DXの推進により、情報の非対称性を解消するための評価が新設されました。
- 救急時医療情報取得加算(新設):50点(月1回)
救命救急等の場面において、意識障害等で服薬情報が得られない患者に対し、マイナ保険証や電子処方箋システム等を通じて過去の診療情報を取得した場合に算定可能となります。
薬剤師は、電子情報から迅速に重複投薬、アレルギー、相互作用をスクリーニングし、医師に報告する役割を担います。施設基準として電子処方箋を発行する体制を有していることが求められており、薬剤部門のシステム整備と評価が連動しています。
一般名処方加算の適正化と残薬対策の処方箋様式変更
一方で、普及が進んだ項目については評価が引き下げられる「適正化」も行われています。
- 一般名処方加算の見直し: 一般名処方加算1:10点 → 8点 一般名処方加算2:8点 → 6点 これは、後発医薬品の使用が一般化したことに伴い、評価の重点を「使用割合」から前述の「安定供給体制」へと移した結果です。経営的にはマイナス要因となりますが、バイオ後続品も対象に含まれるようになったことで、薬剤師の提案による加算算定のチャンスは維持されています。
また、残薬対策を円滑に進めるため、処方箋様式が変更されました。備考欄の指示により、保険薬局が残薬を確認した際に「調剤する薬剤を減量した上で保険医療機関に情報提供する」ことを医師が包括的に指示できるようになり、薬剤師間の連携が簡素化されました。
6.病院薬剤師への影響:総合的な客観分析
今回の改定は、専門的な職能を発揮する医療機関にとってはプラスとなりますが、受動的な業務に留まる場合には経営上の課題を伴う内容となっています。
プラス評価の要因
- 病院への重点配分:本体改定率はプラス3.09パーセント(2年度平均)であり、特に病院には物価対応や緊急対応として重点的に配分されています。
- 技術料単価の引き上げ: 病棟薬剤業務実施加算1(300点)や薬剤総合評価調整加算(160点)など、薬剤師の対人業務に対する評価が引き上げられました。
- 賃上げ原資の公的担保 :ベースアップ評価料の拡充により、薬剤師の給与水準を改善するための原資が直接的に確保されています。
- 専門業務の要件化 :心不全管理や化学療法、周術期などの多くの加算において、薬剤師の介入が算定の必須条件として組み込まれました。
課題とリスク
- 賃上げ未実施時の減算 :継続的な賃上げに取り組まない場合、入院基本料から直接点数が差し引かれる規定が新設されました。
- 実績主義への移行 :病棟への配置だけでなく、ポリファーマシー是正などの具体的な成果(アウトカム)が評価の条件となっています。
- 薬価差益の縮小 :薬価の引き下げ(マイナス0.86パーセント)により、収益の軸を医薬品の価格差から技術料へと移行する必要があります。
2026年度改定が病院薬剤師採用に与える影響
今回の改定は、病院経営における薬剤師の価値を収益面から再定義したものであり、採用戦略にも劇的な変化をもたらします。
☑急性期病院における病院薬剤師配置の強化
病棟薬剤業務実施加算の増点や、専門領域の加算新設により、急性期病院においては薬剤師を病棟へ手厚く配置することが、医療の質向上だけでなく病院経営の安定化に直結します。特に心不全再入院予防継続管理料(1000点)のように薬剤師の配置が算定要件となっている項目が増えたことで、人員不足による算定漏れを防ぐための採用がこれまで以上に急務となります。
☑新卒採用への注力と育成体制の構築
実績主義への完全移行に伴い、将来的に高度な専門性を発揮できる人材を自院で育成する必要性が高まっています。病院は、専門薬剤師や認定薬剤師の取得を支援する体制を整え、意欲の高い薬学生に向けた新卒採用にこれまで以上に力を入れる可能性が高まっています。これは、中長期的な施設基準の維持と、質の高いチーム医療を継続するための不可欠な投資となります。
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