2026年度診療報酬改定「短冊」の重要ポイント解説と2026年薬剤師採用予測
2026年度の診療報酬改定に向けた個別改定項目(短冊)が公表されました。 今回の改定は、物価高騰に伴う点数のベースアップというプラスの側面がある一方で、門前薬局や医療モール型薬局、大手チェーンに対しては厳しい評価を下すなど、経営の二極化を決定づける内容となっています。
1. 診療報酬改定の全体感:対人業務の実績が評価の主役に
今回の改定の骨格を一言で言えば、薬局ビジョンに沿った対人業務重視の姿勢をこれまで以上に鮮明にした点にあります。
・物価高騰と賃金上昇への対応 調剤基本料は全体的に引き上げの方向にあり、経営の基盤を支える配慮が見られます。
・門前・モール型への厳格な評価 医療機関に隣接する立地や、特定の医療機関に依存する薬局の点数は厳しく制限されます。
・機能分化と在宅の推進 地域支援体制や在宅医療を積極的に推進する店舗へのプラス評価が、より具体的な数字で示されています。
2. 社会情勢を反映した新設項目と物価・賃上げ対応
短冊には、社会情勢を反映したベースアップを目的とする新たな算定項目が盛り込まれました。
・調剤物価対応料(物価対応力評価)の新設:3ヶ月に1回算定可能な項目として新設され、2027年6月以降は点数が2倍に増加する予定です。
・賃金ベースアップ評価料の新設:調剤基本料の加算として新設される評価料です。 薬剤師3.2パーセント、事務職員5.7パーセントの賃上げを目的としており、令和9年6月以降にはさらなる点数増加が見込まれています。
この評価料を適切にスタッフへ還元できているかどうかが、採用市場における法人の誠実さを測る指標となります。
3. 調剤基本料の枠組みと「都市部・新規出店」への締め付け
調剤基本料の判定基準には、都市部の過密を解消するための強力なルールが追加されました。
・300店舗要件の撤廃 これまで大手チェーンの指標だった300店舗以上という規定が削除されました。 同一グループの受付回数基準が月3.5万回に引き下げられることで、30店舗から299店舗を運営する中堅チェーン法人が調剤基本料3へ転落するリスクが非常に高まっています。
・都市部における新規開設薬局への制約 政令指定都市や東京23区などの都市部において、新規開局店舗が集中率85パーセント超かつ月間受付600回超の場合は、調剤基本料2を算定する対象として厳しく管理されます。 また、病院の境界から100メートル以内や近隣50メートル以内に複数の他薬局が存在する場合、厳しい門前減算点数が適用される方針です。
・M&Aにおける「遡及指定」の扱い 都市部での新規規制が強まる中、M&Aによる承継は重要な戦略となります。 今回の改定では、M&Aの場合は遡及指定(そきゅうしてい)により、新規開局時の厳しい基本料適用や立地依存減算の対象外となる方向性が示されています。 これにより、新規出店よりも既存店舗の買収によるエリア拡大を選択する法人が増える見込みです。
4. 門前・医療モール型への評価厳格化と集中率計算の変更
特定の医療機関に依存する薬局に対する依存原則の強化が、計算ルールにまで及んでいます。
・医療モールの合算ルール 同一敷地内や同一建物内の複数医療機関は、集中率計算において1つの医療機関としてみなされます。
・介護施設処方箋の計算除外: 集中率を下げるために活用されてきた介護施設向け在宅処方箋が計算から除外される方針です。 施設在宅中心の店舗は、実質的な集中率が急上昇し、算定可能な基本料が下がるリスクを抱えています。
5. 地域支援体制加算の統合と管理薬剤師の「在籍要件」
今回の改定で採用担当者が最も注目すべきは、加算維持のための在籍期間の厳格化です。
・地域支援・医薬品供給対応体制加算の創設 地域支援体制加算と後発医薬品調剤体制加算が統合され、供給体制と地域貢献が一本化されます。
・管理薬剤師の3年縛りルール 施設基準として、管理薬剤師の3年以上の在籍が、加算維持に不可欠となります。 また、常勤薬剤師の平均在籍1年以上という要件も加わります。(いずれかでも可能) 頻繁な応援や異動で回すモデルは加算喪失を招くため、特定の店舗に根付く地域固定型の採用戦略こそが経営の最優先課題です。
6. 在宅医療関連の実績重視へのシフト
在宅評価は、設備の有無(ハコ)から、実際の介入回数や質(ヒト)へと評価の軸が移りました。
・在宅薬学総合体制加算の要件見直し 加算1は年間訪問回数が24回程度へと引き上げられ、加算2では麻薬管理指導10回以上、無菌製剤処理1回以上などの実績が問われます。 施設在宅中心の薬局にはハードルが高くなり、個人宅に丁寧に向き合う薬局が評価されやすい仕組みです。
7. 2026年薬剤師流動化」と募集要項の戦略的見直し
2026年度は、診療報酬改定による収益構造の変化と、M&Aの加速が重なり、薬剤師の流動化が過去最高レベルで激しくなる1年になると予測されます。
M&Aの加速がもたらす採用市場の変化
今回の改定により、単独での収益維持が困難になった中小法人のM&Aが一段と加速し、薬局数自体が減少する局面に入ります。
・離職の増加タイミング: 経営母体の変更や店舗の統廃合に伴い、2026年7月の賞与時期や12月の昇給時期を境に、環境変化を嫌う薬剤師の離職・転職が活発化する見通しです。
・採用の鈍化要因: 地域支援体制加算の維持要件(常勤の在籍期間など)をクリアするため、新卒を大量配置する法人は7月頃まで中途採用の動きを止める可能性があります。
ミスマッチを防ぐ募集要項の「給与編」チェックポイント
激化する採用市場で選ばれ、かつ早期離職を防ぐためには、募集要項の透明性が不可欠です。
・年俸制の明示: 月給12分割の内訳だけでなく、賞与の有無や退職金の有無を正確に記載してください。特に「年俸制=退職金なし」というパターンが多いため、事前の明示がトラブルを防ぎます。
・基本給の重要性: 基本給が高いことは賞与額や将来の安定性に直結するため、薬剤師にとって最大の安心材料です。手当で底上げする構成は、求職者に警戒される傾向にあります。
・固定残業代の時給換算: 20から40時間込みなどの設定は、総月給を160で割った「実質時給」で比較される時代です。40時間以上の設定は特に注意が必要であり、誠実な情報開示が求められます。
施設基準を守るための「休日・働き方編」チェックポイント
管理薬剤師の3年以上の在籍要件をクリアするには、長期定着(リテンション)を促す休日設定の明示が鍵となります。
・完全週休2日制の徹底: 毎週2日の休みを保証する「完全」の表記があるか。週休2日制(月1回以上週2日休みがある状態)との混同は、入社後の不信感に直結します。
・年間休日120日の指標: 土日祝(104日+祝日約16日)を基準とし、お盆や年末年始を含めた「120日」という数字は、ワークライフバランスを重視する層への強いアピールになります。
・変形労働時間制のメリット提示: 1日10時間勤務などを導入している場合は、その分「週休3日」や「週休2.5日」が可能であることを、具体的なメリットとして伝えるのが有効です。
総評:2026年度改定を乗り越えるために
全体として、物価上昇を反映したベースアップが行われるものの、特定の立地に依存したモデルには厳しい内容となっています。 地域支援体制を整え、在宅医療を推進し、対人業務に真摯に取り組んでいる薬局が、報酬面でも採用面でも評価される「薬局ビジョン」への回帰が鮮明です。
同時に、勤務間インターバル制度(11時間)の導入やオンコール規制、副業労働時間の情報開示義務化など、労働基準法の変更も予測されます。 管理薬剤師の在籍ルールや基本料の変更に備え、法令遵守を徹底しつつ、ベースアップ評価料をスタッフに確実に還元できる薬局が、激動する採用市場を勝ち抜いていくことになります。
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